『マルトク』それは、腐乱臭の漂う部屋やゴミ屋敷を意味します・・・。
お客様はマンションのエントランスで、私達が到着するのを待っておられました。
年のころは二十代の後半でしょうか、大変綺麗な女性です。
挨拶をしながらお客様に近づいて行くと『ツン』とキツメの香水の香りがします。
お話を伺ってみると、妹に部屋を貸していたら『ゴミ屋敷』にされたそうです。
足の踏み場もないので、エントランスで話を聞くことになったようです。
私は鍵をお借りし、見積もりの為に指定された部屋の前にやって着ました。
『カチャ』と扉を開けたとき、『ツン』と部屋の中から香水の香りが流れてきました。
中に入ってみるとローカには衣類や雑誌、ゴミ袋が散乱しています・・・。
もちろん、ローカが見えなくなる程の量です。
私の膝下ぐらいでしょう・・。
私は持参したスリッパに履き替え、ゴミの上を歩き、入ってスグ右側の部屋の扉を開けました。
そこはまさにゴミ収集部屋・・・。
マンションなどのゴミ収集場の方が、はるかにマシです。
強烈な生ゴミの悪臭・・・。
部屋の奥は全く何も見えません。
それどころか部屋に一歩も入ることが出来ないゴミの量です。
私の肩よりも高く、部屋の奥から溜まっているようです・・・。
私の目の前には、カップメンの容器、弁当の容器、生ゴミが入っているであろうスーパーのビニール袋。
それらの下には幾十にも重なっている衣類や雑誌、ヌイグルミ、黒や青のゴミ袋・・・。
私は扉を閉め、左側の部屋を見ることにしました。
しかし、ローカにあるゴミが邪魔で扉を開けれません。
しかたなく溜まったゴミ類を手前に山積みにすることにしました。
再び元に戻さなければ、私は家から出ることが出来ません。
扉が開くスペースが出来たので早速開けてみると・・・。
「ハー、同じやん。」
思わずため息が出てしまいました。
先程の部屋と全く同じ状況です・・・。
私は部屋の扉を閉め、突き当たりのリビングに通じるであろうドアを開けました。
『ツン』
とする香水の香りが、きつくなっています。
LDKの部屋のようです。リビングには、布団が引かれています。
その周りは、雑誌、衣類、空き缶、ペットボトルが散乱しています。
しかし、この場所が唯一の生活スペースのようです。
ゆったりと?
布団に寝そぼりTVがみれます。
その左側にあるパソコンにも、手が届きます。
ダイニングにはテーブルが置かれています。
その上に、衣類が積み重なっています。
4脚の椅子は、ショーツ、靴下、ブラジャー、タオル類に分かれています。まるで、椅子の整理ダンスのようです。
キッチンを見てみました
・・・これが意外と綺麗だったのです!
普段から料理をしないからでしょう。
油汚れなど一切、ありません。ただ、フローリングは染みだらけの状態です。
念の為にベランダを覗くと、案の定ゴミの山・・・。
手すりにまで届く、ゴミ袋と何故か、カーペット・・・。
変色し、あきらかに『何か』が住みついていそうです・・・。
トイレの中も確認してみました。便器の外側は、かなり黄ばんでいます。内側は全体にどす黒くなり、尿石がこびり付いています。
まるで、歯の裏側の歯垢のように・・・。
脱衣場に行き、風呂場の扉を開けたときです。
大きなゴキブリが、私をめがけて飛んで来たのです・・・。
とっさに顔を避け振り向いて見ると、ゴキブリはローカを『カサカサ』と逃げ、散乱しているゴミの中へと消えてしまいました。
私は風呂場を一瞥し、直ぐに扉をしめました。
・・・弁当の食べ残しが容器とともに大量にあらわれました。
後、ラーメンの食べ残し・・・、使用済みの生理用品、腐った亀・・・。
悪臭がいっぺんに脱衣所に充満しています・・・。
全ての部屋の確認が終わり、玄関を遮断しているゴミを崩して私は部屋を後にしました。
エントランスでは、不安そうな顔をしてお客様が待っていました。
お待たせしましたと声を掛けると、上目使いにかよわい声で「どうでしょう・・・。」と、思わずその仕草にドッキリしてしまいました。
お客様は恥ずかしさで、今にも泣き出しそうです。
私は『ゴミ』という言葉を使わず『不用物』の撤去作業として話をきりだしました。
「ローカの両サイドの部屋で、置いておく物は何がありますか?それとも床の『不用物』のみ撤去されますか?」
淡々と話す口調に安心され、泣き出しそうな顔が少し解消されていきます。
実際、この2つの部屋の奥は、全く何があるのか見えなかったのですから・・・。
「大丈夫ですよ、なれていますので。何でも、おっしゃってください。」
と言うと、『ほっと』された様子になり、置いておく物のが何かを順番に話されていきます。
結果、両サイドの部屋とローカ、風呂、トイレ、ベランダの物の、全て撤去。リビングやダイニング、キッチンの『不用物』の撤去が初日の作業となりました。作業は、2日後です。
作業当日お客様は、やはりエントランスで待たれていました。
鍵をお借りするためにお客様の近くに寄ると、『ツン』と香水の香りがします。
大体の作業終了時刻を伝え、終了30分前にご連絡させていただくことにしました。人員は5名です。早速、部屋の扉を開けると『不用物』の山から香水の匂いがします。
まずローカの『不用物』を片付け、撤去しなければ左右の部屋に入れません。
私がローカを片付けているうちに、2人がリビングを片付けます。
残り2人が運び出しです。
衣類や布物は90ℓのビニールに入れ、残りのものはダンボールに梱包していきます。
きっちりと箱詰めにしてから運び出すので、近隣からは『ゴミ屋敷』の搬出をしているとはわかりません。
15分程でローカの『不用物』の梱包が終わり、2人に運び出しを任せて、私は右側の部屋の片付けに取り掛かります。
左側の部屋はリビングから戻ってきた『A』が担当します。
生ゴミの悪臭の中、私と『A』は黙々と梱包作業し、それを2人が運び出しをしていきます。
20分程経った頃、1人リビングで片付けをしていた『H』が私の所に『ある物』を見せに来ました。
・・・それは、無茶苦茶デカイ、バイブレーターです。40cmはあるでしょう。この仕事をしていると、たまにピンクローターや『標準的な?バイブレーター』などを見かけますが・・・。
ここまでデカイのは初めて見ました・・・。
『使える』のか・・・。
おもわず作業の手を止めてしまいました。
気持ちを切り替え作業をしていると、ようやく部屋の中に入り込むことが出来てきました。
足元に絨毯が見えはじめてくると、小銭が散らばっています。
1円玉、5円玉、10円玉がほとんどですが、たまに50円、100円玉が雑誌や衣類の下から出てきます・・・。
何故だか分りませんが『ゴミ部屋』を作る家屋からは、かなりの確立で大量の小銭がいつも出てきます・・・。
私は小銭を拾っては、弁当の空き容器に入れていきました。
多分、左の部屋を片付けている『A』も同じことをしているでしょう。
作業は黙々と続きます・・・。
汚れたパンダのぬいぐるみを拾い上げてみると、その下から数枚の写真が出てきました。
旅行にでも行っているのでしょう、男女が楽しげに写っています。
・・・『やっぱりかぁ』とおもっていると、リビングで作業をしていた『H』がアルバムを持ってきました。
それは、ご依頼者である美人のお客様が、ほとんど写っているアルバムでした・・・。
妹が部屋を汚したのではなく、ご自身のお宅だったのです・・・。
あの『ツン』とする香水の香りでわかっていたのですが、『証拠』が見つかり確信となりました。・・・
『えっ、あのバイブも?』